リーダーシップもマネジメントも、組織のメンバーに組織の目標達成に向けた行動を促すための働きかけです。今回は、その働きかけを受ける立場にある個人の構造メカニズム(モチベーションとインセンティブ)について解説していきます。
誰もが金銭を得るという目的のためだけに働くわけではありません。人はどのような動機=モチベーションを持って働くのでしょうか?
モチベーションとインセンティブ
働くための代表的なモチベーションとしては、次の三つがあります。
- 金銭的動機
- 社会的動機(社会の中で評価を得たい)
- 自己実現同期(自己を成長させたい)
これらのモチベーションは、何のために働くのかを理由付けるものといえます。
そして、モチベーションを高める働きをするのが、インセンティブです。代表的なインセンティブには、次の三つがあります。
- 金銭的報酬
- わかりやすいインセンティブとしてよく用いられていますが、不足すれば不満につながる一方で、一定のレベルに達するとモチベーションを高める効果は薄れる傾向がある点には注意が必要です。
- 社会的評価
- 地位や権限、名誉などを指します。業務で高い評価を受けると言ったことの他、魅力的なリーダーや仲間の存在などの社会的関係も組織へのコミットメントを引き出すことにつながります。
- 自己実現の場の提供
- 個人が持つ『自分はこうありたい 』と言う理想像に近づく機会を与えることを指します。
組織への人の貢献度合いは、モチベーションの在りようによって左右されますが、様々なモチベーションのうち、何を重視するかは個人によって異なります。また、モチベーションの種類によって、それを高めるためのインセンティブは異なります。
従って、モチベーションについて考える際には、従業員はどのようなモチベーションに基づいて働いているのか。そして、そのモチベーションを高めるには、どのようなインセンティブを提供することが効果的かを合わせて考える必要があります。
次は、モチベーションについて、さらに詳しく見ていきましょう。
モチベーションに関する代表的な理論
人が働くモチベーションを理解するために役立つ理論にはどのようなものがあるか、代表例を三つご紹介します。
マズローの欲求の5段階説
欲求の5段階 | 職場環境における例 | |
自己実現欲求 | 夢をかなえる | 高次の欲求 |
承認・尊厳欲求 | 高い評価・感謝、周囲からの尊敬 | |
社会的(所属・愛情)欲求 | 良好な人間関係、信頼のおける上司 | 低次の欲求 |
安全・安定性欲求 | 安全な職場環境、雇用の安定 | |
生理的欲求 | 睡眠・休息 |
欲求の5段階説は、アブラハム・マズローによって提唱された、モチベーションに関する最も有名な理論です。欲求5段階説では、人間の欲求を5つの段階に分類し、重要性に従って、それらが階層となっていると考える理論です。
生理的欲求は、食べる寝るといった、生きてく上で必要な根源的な欲求です。働く場においては、睡眠や休息が取れると言ったことがこれに該当します。
安全・安定性欲求は、安全安心な暮らしを求める欲求です。これには安全な職場環境や、雇用の安定が該当します。
次に社会的欲求は、所属と愛情の欲求とも呼ばれ、何らかの集団に所属し仲間を得たいという欲求です。職場においては良好な人間関係や信頼のおける上司の存在などがこれにあたります。
次の承認・尊厳欲求は、他者から認められたいという欲求であり、ビジネスの現場においては、高い評価や周囲からの尊敬を得たいということが該当します。
そして、最後の自己実現欲求とは、なりたいものになりたい。やりたいことをやりたいという欲求です。仕事上の夢を叶えたいと言ったことがこれに該当します。
このうち下の三つが、低次の欲求。上の二つが高次の欲求と呼ばれており、マズローは、人は低次の欲求が満たされると、高次の欲求を満たそうとすると考えました。
このマズローの五段階欲求説は、従業員や部下の動機付けや、満足度の向上を目指す、様々な局面で役立てることができます。
ダグレス・マグレガーの『X理論・Y理論』
欲求の五段階説以外にも、モチベーションに関してよく知られた理論があります。その一つが、ダグラス・マクレガーが唱えたX理論・Y理論です。
人間は本来怠け者で、責任を回避しようとするもの
人間は本来勤勉で、進んで仕事を行い、責任を取ろうとするもの
人間に対する本質的な見方を、二つの異なる理論として対比させたものであり、マズローの欲求5段階説をもとに、理論が構築されています。
このうち、X理論は人間は本来怠け者で、責任を回避しようとするものだとする考え方です。マズローの欲求5段階説の、低次欲求を比較的多く持つ人間の行動モデルであり、このような考えに基づいた場合、人を動かすには明確なノルマと、未達成に対する罰を与えることが有効とされます。
一方のY理論は、人間は本来勤勉で、進んで仕事を行い、責任を取ろうとするものだとする考え方です。マズローの欲求5段階説の高次欲求を多く持つ人間の行動モデルであり、このような考えに基づいた場合、人を動かすには高い目標と、達成時に報酬や賞賛を与えることが有効とされます。
マズローの欲求五段階説と同様、X理論・Y理論も組織のメンバーの動機付けを考える際に、参考になる考え方の一つです。
現代のように、低次欲求を満たされていることの多い現代社会においては、企業は、Y理論を念頭において目標や責任を与えることで、従業員の動機づけを行うことが必要だとされています。
ハーズバークの動機付け・衛生理論
最後にモチベーションに関する代表的な理論の三つ目として、ハーズバーグの動機づけ・衛生理論についてです。
ハーズバーグは、仕事に対して不満をもたらす要因(衛生要因)と、満足をもたらす要因(動機付け要因)は異なるということを示しました。
このうち、満足をもたらす要因が『動機付け要因』です。動機付け要因には、仕事の達成感、承認されること、自己成長などが含まれます。
そして、不満をもたらす要因が『衛生要因』です。衛生要因には、労働環境や、各種の作業条件などが含まれます。
ハーズバーグはこのうち、動機付け要因に働きかけることで、従業員の満足度を高め、モチベーションを向上させることができると考えました。
一方、衛生要因については改善することでは、不満を解消することはできますが、満足感やモチベーションを高められるとは限らないとしました。
このように、仕事に対する『満足をもたらす要因』と、『不満をもたらす要因』とは、異なるということを示したのが、ハーズバーグの動機付け・衛生理論です。
メンバーのモチベーションを高めるためには
モチベーションを高めるためには、何がモチベーションの源泉であるかを理解して、インセンティブを提供する必要があります。
インセンティブの中でも、金銭的報酬などすぐに手を打つことは難しいものもあります。では、モチベーションを高めるために、マネージャーな日常業務を行う中で、すぐ実践できる働きかけには、どのようなものがあるか見ていきましょう。
尊重するというのは、すぐに実践可能な取り組みの一例です。言葉を用いて、相手に評価や承認を与えるという行為は、相手の自己承認欲求を満たし、人が持つ自然な欲求を、満足させることにつながります。
目標設定するというのも、モチベーションを高めることに繋がります。自分の仕事が組織の中でどういう意味合いを持っているのかを認識することが、仕事に取り組む上での自律性を誘発し、また自己承認欲求を満たすことにもなります。
さらに一度動機付けをすれば終わりではなく、その結果を見て、フィードバックをかけるとより効果的です。
この方法のポイントは、相手の理解を前提に言葉を使用するということです。決して一方的な情報伝達にならないように、相手の表情や反応を見ながら工夫をしてみましょう。
そして、いずれの働き方についても、効果を高めるためには、日頃から信頼関係を作っておくことが大切です。
モチベーションとインセンティブのまとめ
人が働くためのモチベーションと、モチベーションに影響を与えるインセンティブには様々なものがあります。企業は、従業員がどのようなモチベーションで働くかを理解して、インセンティブを提供する必要があります。
そして、人が働くモチベーションを理解するために役立つ理論として、3つの代表的な理論があります。
- 欲求5段階説
- X理論・Y理論
- 動機付け・衛生理論
これらの理論は、従業員の動機付けを考える際に役立ちます。
また、モチベーションを高めるために、組織内の立場によらず実践できる働きかけとしては、尊重、目標設定、フィードバック、信頼関係の構築などがあります。
組織を構成するのは個々の人です。人が持つモチベーションとインセンティブの関係を理解して、組織の成果を高めていきましょう。